株式会社柳澤鉄工所
代表取締役 柳澤 康隆 様
秋田県鹿角市 | 製造業 | ~100名
各種試錐用ロッド・ケーシング機器製造 ドリリングツールスのメンテナンス 各種プラント・鉄骨・橋梁(小規模)・水門等の鋼構造物工事、保守点検 コンベア・機械部品等の各種産業機械機器製造、据付 管工事設計施工 移動式クレーンレンタル
2026年3月20日
外国人エンジニア採用に関心はあっても、「言葉の壁」「現場負担」「定着」の不安から一歩を踏み出せない企業は少なくない。秋田県鹿角市の株式会社柳澤鉄工所でも、フィリピン出身のエンジニア2人の受入れが始まってまだ約1か月。
立ち上がりの現場を取材すると、見えてきたのは「採用してから」が本番だという事実だった。能力を見極めるだけでなく、最初の数か月をどう設計するか。その差が、定着と戦力化の道筋を左右していた。
この記事のポイント
- 外国人エンジニア採用は、採用時よりも受入れ後の設計が定着を左右する。
- 最初の3か月は、即戦力化よりも仕事と生活の土台づくりが重要である。
- 現場任せにせず、総務・経営・学習支援を分けて回すことが初期定着につながる。
企業・話し手紹介
秋田県鹿角市にある株式会社柳澤鉄工所は、図面作成から積算、製作工程までを担うものづくり企業です。今回は、フィリピン出身エンジニア2人の受入れ開始から約1か月の現場を取材しました。
主に語ってくれたのは総務担当者で、社長や受入れ支援担当者の話も交えながら、初期定着に向けた考え方と運用の実際を聞きました。
5年後・10年後を先に描く。短期補充ではなく、中核人材として迎える
今回の取材でまず印象に残ったのは、会社が2人に期待している役割が、入社直後の仕事だけで終わっていないことだ。柳澤社長は将来像についてこう語った。「まずは図面を書いてもらう。いずれ積算をする。やがては、製作工程を見守る」「ゆくゆくは、お客さんと技術的なやり取りをしながら、交渉して受注をすることもお願いしたい」と話した。
つまり、最初はCADから始まっても、最終的に求めているのは『図面担当』ではない。営業技術部の一員として、部材手配、顧客対応、案件全体の流れまで担う存在だ。さらに掘削機材や海外メーカーとの接点もあるからこそ、日本語・英語と技術の両方を生かせる人材としての期待も大きい。
「ゆくゆくは、お客さんと技術的なやり取りをしながら、交渉して受注をすることもお願いしたい」— 柳澤社長
短期の穴埋めではなく、5年後、10年後を見据えて採用している。その前提があるからこそ、立ち上がりの数か月も『すぐに回収する期間』ではなく、『育てながら戦力化する期間』として位置づけられていた。
最初の3か月は「即戦力化」より土台づくり
現場の説明も、その考え方と一致している。「今はまだ図面起こしを勉強していただいている」「前段の仕事の内容を覚えるよう、CADをやってるっていうイメージですね」。いきなり顧客対応や対外折衝に出すのではなく、まずは図面・材料・加工の前提を理解してもらう。
受入れ支援の担当者も、来日直後について「最初の3ヶ月間は、ちょっときつい」と率直に話す。そのうえで、「仕事で使う単語を覚えることが大事」と、日本語学習の優先順位を整理していた。日常文法を広く積み上げるより、まずは現場で必要な言葉を覚える。そう切り分けることで、立ち上がりの負担を下げていた。
しかも、会社が見ていたのは仕事だけではない。住まいの使い方、秋田の冬の寒さへの備え、買い物、移動手段。自転車の貸与や生活面の説明も含めて、最初の1か月は『働く準備』と『暮らす準備』を並行して進める期間になっていた。
「最初の3ヶ月間は、ちょっときつい」「仕事で使う単語を覚えることが大事」— 受入れ支援担当者
壁は日本語だけではない。社会人一年目と、静かな職場
課題も明確だった。ただ、それを単純に『外国人だから』『日本語が足りないから』と片づけていない点が、この会社の大きな特徴だ。総務担当者はまず、「大前提として、社会人一年生ということです」と話す。「日本語ができるできないの前にですね、根本的に社会人一年生なのです。ちょっとおどおどしたりとかは、日本人の社会人一年生でも同じだと思います」
つまり、問題は言語だけではない。職場でどう振る舞えばいいか、どのタイミングで確認すればいいか、何を報告すべきか。そうした『社会人としての立ち上がり』も同時に起きている。そこを見誤ると、必要以上に日本語だけへ原因を求めてしまう。
加えて、職場環境にも事情がある。「工場に比べて事務所はものすごく静かなんですよね」「ずっと黙々とやっている感じがあるので、日本語の上達にはなかなか難しい環境かもしれない」。日本人同士でも会話が多い職場ではない。だからこそ、受入れ側も『本人の努力』だけに頼らず、会話の機会をどう作るかまで考える必要がある。
生活面でも、小さな不調は早い段階で出ていた。「(エンジニアの一人が」最初の1週間、2週間ぐらいはあまり体調良くなかったです」「食べ物と睡眠は大事だから、いいものを食べて、ゆっくり寝るようにという話はしました」。仕事の話だけをしていては見落とす部分を、総務が拾っていた。
「大前提として、社会人一年生ということです」
— 総務担当者
週1レポート、月次面談、日本語学習。現場任せにしない受入れ設計
では、現場負担を増やさずにどう回しているのか。鍵になっていたのは、受入れを現場の個人技にしないことだ。総務担当者は、「1週間に1回、週末に一応レポートという形で、どちらかというと生活面で困ったことはないのかというようなレポートを今書いてもらっています」と説明する。さらに、「一応総務部と社長の間だけで協議をするようにしています」と続けた。
今後はそのレポートに、「1週間の目標」「どの程度達成できたか」「会社に対しての希望や要望」も加える予定だという。業務の指導は現場、生活面の拾い上げは総務、全体の方向づけは経営──という役割分担が見える。これなら、現場の担当者だけが背負い込まなくて済む。
日本語学習も同じだ。第2・第4土曜日の地域日本語教室への参加を薦めながら、会社としては「今のうちであれば就業時間中に、例えば週に1回ぐらい1時間、受けてもいいよっていうスタンスです」と、就業時間内での学習機会も検討していた。
さらに、現場では専門用語の一覧も活用しようとしている。定着支援を行うZuittの代表の加藤が柳澤鉄工所専用の図面・加工などの用語リストを提示したところ、担当者からは「こういうのがあるとすごく助かる」。日常会話の上達を待つのではなく、業務で詰まりやすい言葉から先に整える。この順番の付け方が、受入れ設計の現実味につながっている。
「1週間に1回、週末に一応レポートという形で…」
「一応総務部と社長の間で協議をするようにしています」
— 総務担当者
「分からない」が言えるようになるまで。1か月で見えた変化
その設計が効いていると感じさせたのが、1か月時点の変化だ。総務担当者は、「週を重ねるに、だんだんと慣れてくると、聞き直すとか、質問をするとか、できていくようになっていくみたいです」と話す。さらに、「最初の頃はわからないままやっていたことも、『これはどうするんですか』ってご質問があるようになってきている」と続けた。
現場側でも、「分からないとか、もう一度お願いしますとは言うようにはなってきた」と変化を感じていた。定着支援を行うZuittの代表加藤は、初期の目安として「3ヶ月目の終わりぐらいに、指示のうち7割は7割方理解できるぐらい」を一つの基準として挙げる。そう考えれば、1か月時点で『分からない』と言える場面が増えていること自体が、小さくない前進だ。
会社としても、次の一手を考えている。「工場で研修じゃないんですけど、そういうのをやってみたらどうか」という案も出ていた。静かな事務所だけでなく、工場でのやり取りを通じて、言葉と仕事を結びつけていくためだ。
外国人エンジニア採用は、採って終わりではない。採ってからが本番だ。役割の見通しをどこまで描くか。最初の3か月をどう見るか。生活面を誰が支えるか。日本語を何のために学ぶか。そこまで設計して、ようやく定着への土台ができる。
言葉の壁や受入れ負担が不安で踏み切れない企業ほど、必要なのは精神論ではなく、こうした運用の解像度なのだろう。採用前に『誰を採るか』だけでなく、『入社後をどう回すか』まで整理できるかどうか。その差が、最初の一歩を左右する。
「慣れてくると、聞き直すとか、質問をするとか、できていくようになっていく」
— 総務担当者
※本文中の発言は、取材時の趣旨を損なわない範囲で整理・整文しています。