有薗製作所
代表取締役 有薗 央
福岡県北九州市 | 製造業 | 100名~
義肢・装具・車いす・座位保持装置・リハビリ機器・材料・介護用品・医療機器
2026年4月29日
外国人の主体性発揮に必要なのは「おもてなし」とフィードバック
外国人エンジニア採用に関心はあっても、「言葉の壁で現場が混乱しないか」「受け入れ担当の負担が増えないか」と踏み切れない地方の中小企業は少なくない。株式会社有薗製作所の事例が示しているのは、主体性は本人の性格だけで決まるものではなく、受け入れ方によって引き出せるということだ。鍵になったのは、安心して働き始められる“おもてなし”と、行動を前に進めるフィードバックだった。
「みなさんがとても親切」――有薗製作所が最初に整えた土台
フィリピン出身のエンジニア3人、JLさん、Lyraさん、Rubyさんが口をそろえていたのは、「みなさんがとても親切」という言葉だった。評価されていたのは、親切さそのものだけではない。有薗さんが受け入れの姿勢を明確に示し、平野さんが現場研修の意味と今後の業務のつながりを伝え、吉村さんが住居、買い物、銀行口座、電話、日常の困りごとまで支えていた。総務では月曜と金曜に当番制で日本語練習や連絡事項の確認も行っていたという。
ここで重要なのは、この「おもてなし」が属人的な善意ではなく、立ち上がり期の設計になっていたことだ。Zuitt代表の加藤も、来日直後の最初の3カ月は、慣れない言葉と環境の中で「1日8時間働くだけでも大きな負荷がかかる」と見ていた。実際、初回給与までの生活費に不安を抱える場面もあった。だからこそ、生活の不安を早く下げることが、結果として現場での学習と定着を支える。
壁は日本語力そのものではなく、専門用語と“社内の言葉”だった
有薗製作所で見えてきた課題は、「日本語ができない」という単純な話ではなかった。難しかったのは、専門用語、漢字、日本人同士が普段の速さで交わす会話、さらに部署ごとに通じる“社内の言葉”だ。担当者が本人たちに話すときはゆっくり説明しても、目の前で日本人同士が話し始めると文脈が追えない。CADソフトのマニュアルも日本語が中心で、新しい製品名や工程名が次々に出てくる。
そこで同社とZuitt代表の加藤が置いた目標は明快だった。最初の3カ月で、「簡単な日本語なら業務指示の7割を理解する」こと。そのために、週2回×2時間の日本語授業に加え、予習・復習を4時間確保する。現場では用語集を整え、必要な語は日本語でリスト化し、翻訳アプリは補助にとどめる。工場研修でも、わからない語が出れば実演し、紙に書き、本人がメモして翌日の日報で使ってみる。学ぶべき言葉が見えれば、日本語学習は「勉強のための勉強」ではなく、仕事に直結するものへ変わる。
3人の助け合いは強み。だからこそ、JLさんだけに任せない設計が必要だった
3人の関係は良好で、私生活でも職場でも助け合っていた。異国で働き始めたばかりの時期に、この結束は大きな支えになる。一方で、現場で見えてきたのは、3人の中ではJLさんが最も日本語をよく話し、説明や確認がJLさんに寄りやすいという構図だった。
これはチームとしては自然な役割分担だが、日本の職場では「一人が話せば十分」とは受け取られにくい。現場からすると、LyraさんやRubyさんが何を理解し、何を不安に思っているかが見えにくくなるからだ。そこで平野さんは、3人に「これから技術や商品開発を担う存在として、間違ってもいいから感想や気づきを書いてほしい」と伝えていた。重要なのは、チームワークを崩すことではない。3人で助け合いながらも、一人ひとりが自分の言葉で反応することが、日本の職場では主体性として見える——その前提を共有することだった。
主体性を引き出したのは、「できていること」を返すフィードバック
有薗製作所の取り組みで示唆的だったのは、「教え込む」より「回っているかを確認する」姿勢だ。単語を全部教えるのではなく、覚えたかを短く確かめる。勉強そのものを細かく管理するのではなく、続いているか、仕事で使えているかを見る。受け入れ担当の負担を増やしすぎずに回すには、この発想が欠かせない。
もう一つ大事なのが、改善点だけで終わらせないことだ。3人とも学習態度はまじめで、日報も丁寧に書いていた。しかし、自分が前に進めている実感がなければ、人は動きにくい。だからこそ、「ここはよくできている」「この気づきはいい」と個別に返す必要がある。良い点を言語化したうえで次の課題を渡す。この順番が、自信と行動をつなぐ。
「こういうことですか?」で、わからないを前に進む確認へ変える
今回の事例で最も再現性が高い工夫は、確認の仕方だった。言葉に不安があると、「わかりません」「もう一度お願いします」で止まりやすい。だが、それでは相手もどこを補えばいいかつかみにくい。そこでJLさんが他2人のエンジニアに共有したのが、「こういうことですか?」「次はこれをすればいいですか?」と、自分なりの理解に言い換えて確認するやり方だ。
この方法は、上司の時間を無駄にしたくないというフィリピン人側の感覚にも合うし、日本側にとっても修正点が見えやすい。あわせて、受け入れ側も「わかる?」というYes/Noの聞き方ではなく、「次に何を準備する?」「今の説明をどう理解した?」とオープンに尋ねる。すると、理解の浅い部分が表に出る。主体性とは、性格を変えることではない。安心して質問でき、確認の型があり、返ってくるフィードバックがある。その環境があって初めて、行動として表れる。
有薗社長は、3人の将来についてこう語る。